
嫁となり、姑となるのは、前世からの深い縁であって、偶然にそのつながりが出来たわけではありません。大体において、嫁となっている女性は、過去世において、その姑となっている人に深い恩を受けていることが多いのであります。
実母が今生における最大の恩人であることは、誰にも判りますが、姑が過去世での恩人であることは、誰しも思いはしないでしょう。ですから、今迄何の恩義もない赤の他人を、急に母のようにしろといわれても出来る筈がありませんから、実母のように愛情を感じる筈がないではありませんか、などとお嫁さん側が云っているのです。
しかし、私たちのように過去世のことと今生の深いつながりを知っている者にとっては、過去世と今生が、はっきりつながって見えるので、お嫁さんは、お姑さんをそういう意味の恩人だと思って、過去世の恩返しのつもりで尽くしてあげなさい、と云いたいのです。そうしていかないと、それだけの過去世からの心の負債を、やがて、どこかで無理に払わされるような結果になって、未来で大きな心の痛手を誰から負わされてしまうものです。
そういうことなしに、現在だけ考えても、二十何年か三十何年かを、手塩にかけて育ててきた息子を、他の人に渡してしまうということは、その母にとって、どれだけの気落ちになるかわかりません。若い人が恋人を他の人に渡してしまった、とほとんど同じ感情なのであります。
そうした姑の感情を考えてやって、その感情を少しでも和らげてやるような思いやりがあれば、きっと、お姑さんとの仲がうまくゆくと思います。姑さんと仲良くできるようなお嫁さんは、人間としても必ず立派な人であり、神の祝福を受ける人であることを私は疑いません。
【出典】宗教問答 五井昌久著