【万治郎は欧米で正式に高等教育を受けた最初の日本人】

ジョン万次郎は、幕末に漂流してアメリカに渡った人というイメージしか一般にはないようだが、彼は単にそれだけの人ではない。彼がいたお蔭で、幕末の日本は幸せなコースを辿ることが出来たのである。

ジョン万次郎は土佐の貧乏漁師の息子だったが、天保12年(1,841)、14歳のときにカツオ船に乗って難破し、無人島の鳥島に漂着した処をアメリカの捕鯨船に助けられる。ここから、万次郎の運命はガラリとかわることになる。難破して西洋の船に救われた漁師たちは、この他にも沢山の例があり、このときも万次郎だけが助けられたのではなく、同僚たちも一緒に助けられた。

万次郎が他の人とどこが違ったのかと言えば、それは彼が人一倍の好奇心と理解力を持っていたという点である。彼は、この捕鯨船で積極的にアメリカ人の船員たちの中に入り込み、彼らの言葉を覚えようとした。また、極めて目が良かったらしく、自分から進んでマストに登り、クジラを探す手伝いをして船員たちからも愛されたと言われている。


・ジョン万次郎と万次郎を養子にしたホイットフィールド船長

そして、この様子を見た船長が万次郎を大いに気に入り、自分の養子にならないかと持ちかけることになった。当時のアメリカは、まだ建国して60年余りの若々しい国であったから、肌の色にこだわらない、この船長の様な立派な人物もいたのである。

万次郎は大いに喜んでこの申し出を受け、船長の故郷であるニューイングランドで暮らすことになった。ここでも彼は皆から愛され、また大いに学んで、ついにはバートレット・アカデミーという学校に進学して航海士の勉強をする。

Bartlett

アメリカのアカデミーというと日本の専門学校というイメージがあるが、当時はアカデミーも大学と同じくらいの水準で、入学するにも相当な学力が必要だったようである。また、航海士というのは、単に操船術だけでなく、高度の天文学や数学も学ばなければならない

このバートレット・アカデミーを首席で卒業した後、万次郎は捕鯨船の船員となったのだが、航海中に船長が脳の病気を起こしたときには、船員たちから推挙され副船長兼一等航海士にまでなった。

ジョン万次郎は単に外国で暮らしただけの人物だけではなく、欧米で正式に高等教育を受けた最初の日本人であり、しかもアメリカ社会にて一等航海士という非常に名誉のある地位に就いた最初の日本人でもあった。また、白人の女性と結婚したとこ言われているので、その点においても日本最初だった。

しかし、これだけ出世を成し遂げた万次郎も、やはり望郷の念は捨てられず、故郷に帰ることとなる。故郷には年老いた母がいたからである。

jonman011

■ジョン万次郎の功績

ジョン万次郎がようやく日本に戻れたのは、漂流してから10年後の嘉永4年(1,851)のことであった。彼は琉球(沖縄)に上陸する。当時は鎖国であったから、海外から戻ってきた漂流民は罪人である。彼の身柄を抑えたのは琉球を支配していた薩摩藩である。

彼らは最初、万次郎のことをただの漁民として扱っていたが、話しているうちに(万次郎は語学の天才であったから、ただちに侍言葉が使えるようになった)相当な学識の持ち主だということに気が付いた。

Kurofune_2

既に、日本の近海には度々外国船が来るようになっていたから、海外の正確な情報が求められていた時期であった。そこで、琉球支配の薩摩藩の代官が直接、万次郎から事情聴取を行うと、どんな質問にも的確な答えが返ってきたので、その薩摩藩の役人は大いに驚いたという。

当時の薩摩藩の藩主は、開明派として知られる島津斉彬であった。斉彬は琉球からの報告書を読んで、直接に万次郎から話を聞くことにした。万次郎の話を聞いた斉彬は大変な感銘を受けたようである。薩摩藩滞在中の万次郎は、まことに丁寧な扱いを受けたという。

shimazu_nariakira

また、漂流民の取り調べをする長崎奉行に対しても、斉彬は「この男は怪しいものではない」、つまりキリシタンではないという一種の保証書までも送っている。長崎奉行所で取り調べを受けた万次郎は無事、土佐に帰ることを許される。土佐藩は彼を士分に取り立て、まや藩主・山内容堂は重臣・吉田東洋に命じて、彼の話を報告書にまとめさせ大いに参考にしたという。

yamauchi_youdou

一介の漁民であっても、重要な知識を持っていれば士分に取り立てられ、それどころか大名と直接面会出来たということだけを見ても、幕末の江戸時代は単なる封建体制ではなかったということが分かるが、万次郎の活躍はこれだけでは終わらなかった。

というのも、万次郎が帰国した翌々年(嘉永6年、1853年)に浦賀にペリーが現れたからである。時の老中首座・阿部正弘はこの事態に対処するため、早速、土佐の万次郎を江戸に呼んだ。万次郎は幕府首脳の会議において、アメリカ事情について説明する。勿論、幕府も長崎のオランダ商館を通じて海外のことはある程度知っていたのだが、万次郎の話はそれを裏付けるばかりか、ペリー提督自身の履歴まで詳しく知っていたから、みな驚嘆したという。

Pery

中でも重要だったのは、「アメリカには侵略の意図はなく、捕鯨船に対する補給を要求しているに過ぎない」ということを指摘したことであった。何といっても、彼自身が捕鯨船の乗組員であったから、この情報には重みがある。

幕府がペリー艦隊を無闇に討ち払わなかったのには、万次郎の功績がまことに大であったと言えるだろう。万次郎がもし幕末の日本に戻らずアメリカに残っていたとしたら、明治維新の流れが大きく変わっていた可能性は大きい。

ちなみに、このあとも万次郎は恵まれた人生を送っている。韮山代官・江川太郎左衛門のもとで幕府の近代化を手伝い、軍艦操練所の教授にもなった。維新後も開成学校(のちの東京大学)の英語教授として働き、明治31年(1,898)まで生きたし、その子孫も立派な学者になっている。

【日本の指導者層も有能だった】

江戸末期にジョン万次郎という人物が現れたということは、まことに日本にとって幸運であったが、しかし、このような幸運を幸運として成立せしめたのは、やはり日本の指導者層が有能であったことが大きい。

万次郎という天才的な人物がもたらした情報の意味が、彼に接した島津斉彬、山内容堂、さらに幕府首脳にはちゃんとわかったのである。ここが、他の有色人種諸国と大いに違う処であった。

【出典】世界史に躍り出た日本 日本の歴史5 明治編 渡部昇一

スポンサード・リンク


関連記事

コメント

    • ねねこ
    • 2017年 12月 23日

    万次郎の若い頃の写真ではなく、それはジョセフ・ヒコ(浜田彦蔵)の写真です。

      • sharp-insight
      • 2018年 4月 06日

      ありがとうございます、返事大変遅れてすみません。訂正しました。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

スポンサード・リンク

カテゴリー

スポンサード・リンク

隠蔽される原発の実態

  1. 福島第一原発事故で福島県から避難した小中高生に対するいじめが問題となっていたが、文部科学省がようやく…
  2. 高速増殖炉もんじゅの廃炉と抱合せで政府は新たな高速炉の開発を目論んでいます。ところが、冷却材として用…
  3. 汚染水の貯蔵量は80万トンを超え、タンク増設のスペースも残り少なくなり、トリチウム汚染水の海洋放流が…
  4. 高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉を正式決定。技術的な難易度が非常に高いこと、事故が起きた時の被害の想…
  5. H28.11.30、敦賀原発2号機で作業中、一次冷却水が飛散し、作業員10人が一次冷却水浴びました。…

生命の永遠性が全ての基

  1. 2017-5-31

    日本と日本人の使命

    日本はあくまで霊の本であり、大和(だいわ)の国、やまとの国と言って、大調和の中心となるべき国。日本人…
  2. 2017-5-17

    境界の溶け合う祈り「世界人類が平和でありますように」

    どうして国や民族は分かれているのだろう……この問いに、五井先生は「お互いがお互いを助け合って、地球界…
  3. 2016-10-26

    姑さんと仲良く暮らせる方法を教えて下さい

    大体において、嫁となっている女性は、過去世において、その姑となっている人に深い恩を受けていることが多…

ピックアップ記事

  1. 2016-11-22

    魚が結構汚染されているというのはご存知ですか?

    魚はオメガ3脂肪酸(EPAやDHA)の宝庫だが、高タンパク・高コレステロール食品であり、食物繊維は魚…
  2. 2016-11-21

    肝臓と腎臓の疲れが病の元

    浄化槽である肝臓が処理し切れないと、その歪みを腎臓が負うことになり、それすら満足に働かないと、血液の…
  3. 2016-11-19

    血液の浄化になくてはならない腎臓

    腎臓の働きは、1. 体の水分量や電解質の体液組成を一定となるように調節する。2. レニンというホルモ…
  4. 2016-11-13

    免疫力は肝臓で高まる

    食べ物を栄養としてとり込む器官を胃腸と考えている方も多いと思いますが、身となる役目をしているのは肝臓…
  5. 2016-11-11

    骨の弱さが性格に影響する、丈夫な骨は穀菜食型

    肉より野菜、海草、大豆、ゴマ、クルミ、穀類などを食べた方が、カルシウムその他のミネラルが多いので、歯…
『カイテキオリゴ』

【PriorityPass】




世界No.1空港ラウンジサービスです。搭乗クラスに関係なく、世界各国1000+αの空港ラウンジへ

ページ上部へ戻る